SagamiToshio’s blog

夕景/夜景ハンター。夜行性です。

『英文法を哲学する』(佐藤良明著、アルク刊)

 

 

著者はピンチョンやベイトソンの翻訳やNHKの「リトル・チャロ」で知られる東大名誉教授。待望の英文法論が出たので早速読んでみた。

英語(と日本語)、そして言語そのものの本質にもかなり深く切り込んでいて、書名通り確かに「哲学」しています。一般的な英語学習書のつもりで読み始めて、最初はちょっと面食らった。初学者向けではないかな。

従来の教科書的な英文法論に染まってしまっている身としてはまさにゲシュタルト崩壊、足場が液状化するような感覚にたびたび襲われて、それでもおっかなびっくり読み進め、なんとか通読。大きく首肯することしきりではあったけれど、まだまだ全体を咀嚼するには至らず、授業の現場で知見を生かすにはもう少し時間がかかりそう。

「英語の人称代名詞は甲乙丙丁のような無機質な記号」

「日本語の「はい」は従順さの表明で英語のyesとは違う」

「英語は構造に収まりたがる」

「内なる自分がいる日本語VS自分を外に置く英語」

などは多くの英語学習者は意識していないことだろうし、もっと強調されるべきことだ。これらを知るだけでも英語の語感、発想がぐっと身近に感じられるはずだ。

発話状況の中で躍動する言語をしなやかに生け捕ろうという佐藤先生の企図に改めて触れ、久々に大きな刺激になった。

もちろん言語習得には泥臭い取り組みが欠かせないのではあるが、抽象度高く導き出されたプリンシプルの裏打ちがあってこそだ。特になかなか言語化されることのない英語話者の心の習慣、思考の慣性のようなものを深く言挙げした一般向け書という点で本書は貴重だと言えるだろう。